大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)40号 判決

審決にこれを取り消すべき違法の点があるかどうかについて判断する。

(一) 原告は、本願考案に第一引用例及び第二引用例の達成しえない格別の効果があるとして、請求原因(四)の1の(1)ないし(3)の三点をあげ、これを根拠として、本願考案がきわめて容易に考案できたものとはいえない旨主張するので、まず、この点について検討する。

1 右(1)の効果について

前記争いのない本願考案の要旨によれば、本願考案は給気パイプとしてフレキシブルチユーブを用いることを構成要件としているものであるところ、フレキシブルチユーブは、それ自身がたわみやすくできているもので、配管の方向を変えたり、配管全体の拘束を緩和する目的で管路の途中に入れるたわみ金属管、ゴム管、ゴムホースなどのような管であつて、取付位置がずれていてもこれに関係なくチユーブを取り付けることができるものであることは顕著な事実であることを考えれば、右(1)の効果は、給気パイプにフレキシブルチユーブを用いたことによる当然の効果であつて、本願考案がとくにフレキシブルチユーブを強制給排気形燃焼器具の給気パイプとして用いたことによる特有のものではなく、単なるフレキシブルチユーブの特性に基づくものにすぎないといわなければならない。

そして、成立に争いのない甲第九号証によれば、第二引用例のものは、燃焼器具本体の入口(16)に設けたスピゴツト(61)(差し口)と、空気流入パイプ(75)と連通しているフアンの流出口に設けたスピゴツト(58)との間を可撓パイプ(56)で接続したものであつて、フアンの流出口のスピゴツトの取付位置と本体入口のスピゴツトの取付位置とに寸法的なずれがあつても、これに関係なく可撓パイプを取り付けることができるものであることが認められるから、本願考案と第二引用例との間に給排気筒の給気筒とフアンの空気流出口との違いがあるとしても、給気パイプの取付に関しては、本願考案と第二引用例のものとの間に効果上格別の差異はない。(第二引用例のものは、その構造からみて、可撓性パイプを燃焼器具の組立時に取り付けるものとみられ、本願考案のフレキシブルチユーブが施工時に取り付けるものであることとの間において違いはあるが、給気パイプ取付位置の寸法的誤差に関係なく簡単に取り付けられる点においては差異がない。)

したがつて、前記(1)の効果は格別のものとすることはできない。

2 同(2)の効果について

給気パイプの取付をストーブ本体外で行うことができるため給気パイプの取付作業が容易であるとする点については、成立に争いのない甲第八号証によれば、第一引用例においても、燃焼空気供給ダクト(本願考案の給気パイプにあたる。)は、燃焼装置本体の外側に設けられていることが認められるから、給気パイプの配置位置に基づく取付作業の容易さにおいては、本願考案も第一引用例のものも格別差異はない。

そして、第二引用例が存在する以上、第一引用例の燃焼空気供給ダクトをフレキシブルチユーブとすることは当業者がきわめて容易になしうる単なる設計変更にすぎないものであることは審決の説示するとおりであるから、フレキシブルチユーブの給気パイプを燃焼装置本体の外側に取り付けることの作業の容易さは、フレキシブルチユーブの特性及び第一引用例の燃焼空気供給ダクトの位置から当然予測されることである。

また、ストーブ本体と給排気筒との結合がストーブ本体の排気取付筒と給排気筒の排気筒とのはめ合わせ作業だけですむとの点については、第一引用例の燃焼空気供給ダクトに第二引用例のフレキシブルチユーブを用いることにより、二重構造の給排気筒は当然排気筒のみをはめ合わせれば済むことになるもので、当業者の予測の範囲を出るものではない。

したがつて、右(2)の効果は、当然予測される効果にすぎない。

3 同(3)の効果について

ストーブ本体の壁体との間に手が入るだけのスペースさえあれば給気パイプを取り付けることができるとの点については、給気パイプをフレキシブルチユーブとしたこと及びストーブ本体外に給気パイプを取り付けるようにしたことによりパイプの取付が簡単となつた結果生じた効果とみられるところ、第一引用例の燃焼器具本体の外側に設けてある燃焼空気供給ダクトをフレキシブルチユーブとすることがきわめて容易であることは前示のとおりであり、このようにきわめて容易に考えられた燃焼器具においてはフレキシブルチユーブの特性と燃焼器具本体の外側に給気パイプを取り付けたことによる効果を合わせ持つことになり、本願考案と同様に燃焼器具本体と壁体との間に手が入るだけのスペースがあれば給気パイプの取付が可能となるものということができるから、右(3)の効果は、第一引用例及び第二引用例のものから当然予測される効果といわなければならない。

以上のとおりであるから、原告が主張する右(1)ないし(3)の効果は、いずれも格別のものとは認められず、したがつて、格別の効果があることを前提とする原告の主張は理由がない。

(二) つぎに、原告は、現在市販されている燃焼器具のほとんどにおいて本願考案のような構造が採用されていることは本願考案の効果が格別に優れていることを裏付けるものである旨主張している(請求原因(四)の2)が、さして優れていない構造のものであつても広く採用されていることがあることは顕著な事実であり、必ずしも採用の多少によつてその構造が格別に優れているものかどうかを断定できるとはいえないから、原告の右主張は理由がない。

(三) なお、請求原因(四)の3における原告の主張は、審決が、「二重構造の給排気筒の給気パイプを本体外で本体側の給気取付筒に挿し込んで接続する」構成につき、これが第一引用例及び第二引用例に開示されているとしているものではなく、右構成が右各引用例からきわめて容易に考案できたものとしているにすぎないから、審決の判断を違法とする理由になるものではない。

(四) 以上、審決を違法とする原告の主張はいずれもその理由がなく、審決には、これを取り消すべき違法の点はない。

よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。

本願考案の要旨

給気取付筒と排気取付筒とを有するストーブ本体と、室内外を貫通する二重構造の給排気筒とを備え、該給排気筒の給気筒とストーブ本体の給気取付筒とを、ストーブ本体の外側でフレキシブルチユーブからなる給気パイプにより接続したことを特徴とする強制給排気形燃焼器具。

審決理由の要旨

本願考案の要旨は、前項記載のところにあるものと認める。

これに対して、米国特許第三四三五八一六号明細書(以下「第一引用例」という。)には、室内外を貫通して同心状に配置された内側パイプおよび外側パイプと、装置の側壁に設けられた燃焼ガス排出口および燃焼空気供給口とを備え、前記内側パイプを前記燃焼ガス排出口に連結し、かつ前記外側パイプの内端を端板で閉鎖すると共に該外側パイプの該端板に隣接した位置に設けた開口と前記燃焼空気供給口とを燃焼空気供給ダクトで連結した燃焼装置が記載されている。同じく、米国特許第三三六四九一六号明細書(以下「第二引用例」という。)には、排出パイプの外側に同心状に配置された供給パイプに接続したチヤンバーと内部パネルの供給口との間を連結するフレキシブルパイプを通じて送風機により燃焼空気を供給するようにした強制給排気形の燃焼装置が記載されている。

本願考案と第一引用例記載のものとを比較すると、両者は、次の三点において相違する以外、その他の点では表現上に差異はあつても実質的には一致するものと認められる。

一 本願考案は、排気取付筒及び給気取付筒を用いて排気筒及び給気パイプの各一端をストーブ本体に取り付けているが、第一引用例記載のものは、燃焼ガス排出口と内側パイプ(本願考案の排気パイプに相当する。)の一端および燃焼空気供給口と燃焼空気供給ダクト(本願考案の給気パイプに相当する。)の一端との取付構造が不明である。

二 本願考案の給気パイプは、フレキシブルチユーブであるが、第一引用例記載のものの燃焼空気供給ダクトは、フレキシブルチユーブではない。

三 本願考案は、強制給排気形であるが、第一引用例記載のものは、同明細書全体の記載から判断すると、自然給排気形と一応推認されるが、自然給排気形か強制給排気形か明確ではない。

そこで、これらの相違点について検討するに、相違点の一については、取付筒を用いて筒体を本体に取り付けることは、広く一般的に採用されている慣用技術であるばかりか、当分野においても必要に応じて採用されていること(例えば、第二引用例記載のものにおいても、排出パイプおよび供給パイプは、本願考案の取付筒に相当するスピゴツトおよびフランジを用いて取り付けられている。)であつて、本願考案が取付筒を用いて排気筒および給気パイプを本体に取り付けるようにした点にはとくに考案は認められない。つぎに、相違点の二については、第一引用例記載のものの燃焼空気供給ダクトをフレキシブルチユーブとすることは、前記したところの第二引用例に記載された技術に基づいて、当業者が必要に応じてきわめて容易になしうる程度のことと認められ、この相違点は、単なる設計変更の域を出ないものといえる。さらに、相違点の三については、強制給排気も自然給排気も共に周知の給排気形式(強制給排気の例としては、第二引用例参照)であり、その選択は、とくに考案力を要することなく、設計に際し適宜なしうる程度のことと認められる。そして、本願考案の効果をみても、これらのものから予測できる効果以上のものは認められない。

したがつて、本願考案は、第一引用例及び第二引用例記載のもの並びに前記慣用技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第三条第二項の規定により同法同条の規定する実用新案登録の要件を具備しないものである。

審決を取り消すべき理由

本願考案は、後記のとおり、第一引用例及び第二引用例各記載のものが達成できない格別の作用効果を有するものであるから、これを第一引用例及び第二引用例各記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたとした審決の判断は誤りであり、審決は取消を免れない。

1 本願考案は、施工現場での作業性の点を十分に踏まえて考えられた考案であつて、その要部とするところは、「給排気筒の給気筒とストーブ本体の給気取付筒とをストーブ本体の外側でフレキシブルチユーブからなる給気パイプで接続する」という点にある。

この具体的な構成によつて、

(1) 施工時に、給排気筒の給気筒と、ストーブ本体側の給気取付筒との間に寸法誤差が生じても、それに関係なく給気パイプを簡単に取り付けうること。

(2) 給気パイプの取付けは、ストーブ本体外で行うため、給気パイプ取付作業がやり易く、かつストーブ本体と給排気筒とは、ストーブ本体の排気取付筒と給排気筒の排気筒とのはめ合わせ作業だけで済むこと。

(3) ストーブ本体外で、給排気筒の給気筒とストーブ本体の給気取付筒とに、フレキシブルチユーブの給気パイプを取り付けるだけであるため、ストーブ本体と壁体との間には手が入るだけのスペースさえあれば、給気パイプの取り付けが行えること。

このような効果は、審決で引用した第一引用例及び第二引用例各記載のものでは到底達成しうるものではない。

2 本願考案の効果は、単に給気するという基礎的な効果にとどまらず、「この種の器具を実際に一般家庭のケースバイケースに応じた場所に設置(施工)する」段階のきわめて重大な問題点までをも解決したものである。

この問題点の解決によつて、壁体側に取り付けられる二重構造の給排気筒と室内側に設置されるストーブ本体側との接続作業がいとも簡単にできる、というきわめて有用な効果と、熱的な悪影響を受け易い給気パイプの自然冷却効果とを生み出したものである。

このように本願考案には格別に優れた効果があるという事実は現在市販されているほとんどの器具が本願考案の如き構造を採用していることからも窺うことができる。

3 第一引用例及び第二引用例には、本願考案の「二重構造の給排気筒の給気パイプを本体外で本体側の給気取付筒に挿し込んで接続する」構成が開示されていない。したがつて、次の二点の作用効果は第一引用例及び第二引用例からは得ることができない。

(1) 給排気筒の排気筒は本体側の排気取付筒に、給排気筒の給気パイプは本体側の給気取付筒にそれぞれ単筒の形態で単に挿し込んで接続するだけであるため、その接続作業がきわめてやり易くなると共に単に挿し込むだけの接続であるため、高度の技術を必要としない。

(2) 給排気筒の給気パイプと本体側の給気取付筒との間の寸法誤差に関係なく給気パイプを給気取付筒に挿し込んで接続できるため、給排気筒挿通用の穴明け位置及び給排気筒の二重構造の精度を高くする必要がない。

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